今、ゲームファンの間で話題沸騰中の本格カードバトルゲーム「ドラゴンズシャドウ」。安定稼働とコスト削減のために選ばれたインフラは、定番の都市型データセンターではなく北海道・石狩にある郊外型データセンターだった。
新作ゲームの開発に当たってデータセンター移行を検討

そんな同社の最新タイトルは、2013年3月に正式リリースされたばかりのiOS向けカードバトルゲーム「ドラゴンズシャドウ」。サービス開始からわずか4カ月あまりしかたっていないにもかかわらず(2013年7月現在)、ゲームマニアを唸らせる本格機能と華麗なグラフィックス描写が話題を呼び、早くも30万以上のダウンロード数を記録している。
ジークレストではこのドラゴンズシャドウの開発・運営に当たり、ある興味深い取り組みを始めている。それまで、自社開発コンテンツのインフラを都内のデータセンターに置いていたのに対し、ドラゴンズシャドウではさくらインターネットの石狩データセンターでインフラを稼働させているのだ。この新たな取り組みの背景について、ジークレスト コーポレート推進本部 技術統括グループ 石橋徹弥氏は次のように説明する。
「それまでは、都内のデータセンターでインフラを運用していたが、ラックの空き状況や、リモートオペレーションの品質などで心許ない面があった。そこでドラゴンズシャドウでは、こうした課題をクリアできる新たなデータセンター基盤の利用を検討していた」
そんな折に同氏が知ったのが、さくらインターネットが新たに提供を始めたコロケーションサービス「リモートハウジング」だった。このサービスはその名の通り、ハウジングサービスの一種だが、通常はユーザーが自ら機器をデータセンターに持ち込んで設置するところを、石狩データセンターに機器を送付すれば、後はさくらインターネットがすべての機器設置作業を現地で代行するという形態のサービスだ。これを利用することで、ユーザーは石狩まで足を運ばずとも、自社の機器を石狩データセンター内に設置できるようになるのだ。
石狩データセンターの新サービス「リモートハウジング」を採用
石橋氏は、石狩データセンターをハウジング環境として気軽に利用できるようになったことに、極めて大きな魅力を感じたという。その第一の理由は、それまでインフラ運用で抱えていたさまざまな課題を、一気に解決できる可能性を秘めていたからだ。
「石狩データセンターには広大なスペースがあるので、ラックの空き状況を気にすることなく、将来のインフラ拡張にも柔軟に対応できるはずだと考えた。また、さくらインターネットのリモートオペレーションには定評があったことも、興味を惹かれる理由の1つだった」
また、一般的にオンラインゲームは、ネットワークのレイテンシーがサービス品質を大きく左右すると言われ、よって都市型データセンターでインフラを運用する方が有利だとされる。しかし石橋氏によれば、そうした特殊な事情を抱えるのは一部のコンテンツに過ぎないという。
「確かに、PC向けの一部のオンラインゲームはネットワークのレイテンシーに極めてシビアなため、遠隔地のデータセンターでは不利になることもある。しかし、大半のオンラインゲームはそこまでシビアではなく、中でもモバイル向けのソーシャルゲームはモバイル端末と基地局との間の通信状況に大きく左右されるため、データセンターの立地はほとんど考慮する必要がない」
むしろ同氏は、石狩という遠隔地にデータセンターが立地することで得られるアドバンテージの方を重視したという。
「地震がほとんど発生しない北海道石狩市にあるため、災害対策(DR)について気にする必要がない。また設備が冗長化されていたり、あるいは都内に比べ電力供給が安定していたりと、郊外型ならではの高い安定性や堅牢性も大きな魅力だった」
このように、拡張性と堅牢性にすぐれたファシリティと、対応品質が高いリモートオペレーションサービスを低コストで手に入れられる点が決め手となり、同社はドラゴンズシャドウのインフラとしてリモートハウジングの採用を決めた。
インフラコスト削減と効率化のポイント
まずはジークレスト側でサーバやネットワーク機器を準備して石狩データセンターに送付、それを受け取ったさくらインターネット側が現地でのすべての設置作業を行った。また、ルータやハブなど一部のネットワーク機器に関しては、さくらインターネットが提供するレンタル機器を使用することにした。
これら一連の作業は2回に分けて行われたが、すべてに要した期間は2週間足らずだったという。
「機器の設置やネットワークの設定は、本当にあっという間に完了した。むしろ機器の輸送や、ミドルウェアのセットアップ作業の方が時間がかかったぐらいだ」
このリモートハウジングサービスの利用前に、石橋氏が唯一不安を抱いていたのが、ネットワーク回線の結線作業だったという。事前に担当者と入念に打ち合わせを行い、ネットワーク論理図や結線図を準備してはいたものの、現地での結線作業にミスが生じてしまっては元も子もない。しかし同氏の懸念をよそに、実際にはそうした作業ミスは一切発生しなかった。後になり、石狩データセンターを見学に訪れた同氏は、自社サーバが収められたラックを見て「自分たちで作業するより、よほどきれいに結線されている!」と感心したという。
また、リリース期日まで十分な余裕を持って作業を進められただけでなく、サービス品質の向上も果たせたと石橋氏は話す。
「設置作業が短期間の内に完了したおかげで、本番環境上での負荷テストに十分な時間を割くことができた。ここで多くの問題点をつぶし、徹底したチューニングを行うことができたので、当初想定していたよりはるかに高いパフォーマンスを得られた」
加えて同社内におけるインフラ運用業務も、石狩データセンターにインフラを構築したことで大幅に効率化されたという。
「都市型データセンターだと、何か問題が起きた際に直接現地に足を運んで対応する人員を確保しておく必要があるが、石狩データセンターの場合は必要がない。いっぽう、現地作業に直接赴くのは現実的ではないため、より効率的な運用作業の自動化やシステム化に取り組んだ。その結果、ドラゴンズシャドウのインフラ運用作業は、わずか1人の開発者が開発業務の片手間で行えるまでに効率化され、人的コストを大幅に削減できた」
オンプレミスとクラウドの環境が同じデータセンター内にある意義
ちなみに今回ジークレストは、同じく石狩データセンターで運営されているIaaS型クラウド「さくらのクラウド」の利用も始めている。開発環境は基本的にすべてさくらのクラウドで調達しているほか、本番環境でもDNSサーバやロードバランサーなどはクラウド環境上で運用している。
同社のクラウド利用法の中で最も特徴的なのが、ホスティング環境とクラウド環境の「ハイブリッド運用」だ。平常時には、基本的にホスティング環境のみでサービスを稼働させる。しかし、もし突発的に高い処理負荷が掛かり、リソース不足に陥った場合には、さくらのクラウドで一時的に仮想サーバを調達し、ホスティング環境と連携させることでインフラの処理能力をスケールアウトさせる。
こうしたオンプレミスとクラウドのハイブリッド構成によるスケールアウトの仕組みは、ソーシャルゲームのインフラを効率的に運用する上では極めて有利に働くと石橋氏は指摘する。
「ソーシャルゲームのようなB2Cサービスは、イベントや告知など、何らかのきっかけで急激にトラフィックが増加する。ドラゴンズシャドウのインフラの設計開始当初は、こうした突発的な負荷増加を自前のサーバですべてさばくことも考えたが、やはりコストが掛かりすぎるため、ハウジングとクラウドのハイブリッド構成によるスケールアウトによって対応することにした」
同社では現在、ドラゴンズシャドウ以外のゲームやアプリのインフラも石狩データセンターへ移行することを検討しているという。
「オンプレミスとクラウドの環境が同じデータセンター内にあり、柔軟に相互運用できる点が石狩データセンターの強みだと思う。例えば、サービス開始当初はクラウドで小さく始めて、サービス規模が拡大してきたらオンプレミス環境に移行するといったようなことが、同じデータセンター内で、しかも迅速かつ低コストで実現できる。今後は、ネットワークのレイテンシーがさほどシビアでないコンテンツのインフラは、極力石狩データセンターで運用していきたいと考えている」(石橋氏)
お客様プロフィール
株式会社ジークレスト
住所:東京都渋谷区南平台町16番17号 住友不動産渋谷ガーデンタワー
資本金:2億3907万円
事業内容:オンラインゲームの企画、開発、運営、販売 携帯電話向けコンテンツの企画、開発、運営、販売
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