※今回の事例紹介は、週刊BCN vol.502 「THE 決断」に掲載されたものを、加筆・転載したものです。
日立公共システムエンジニアリング(日立公共システム)社は、データセンター料金の低価格化に悩んでいました。同社の主力商材の一つである自治体向けコンテンツ管理システム(CMS)「4Uweb/CMS」は、これまで客先設置(オンプレミス)型がメインでしたが、ここ数年、データセンターを活用したクラウド型へ移行する需要が急増しています。
しかし、日立公共システムはデータセンター事業者間の競争原理による低価格化に対応しきれない状態が続いていました。
「自庁型」から「データセンター活用型」へ
日立公共システム社の自治体向けCMS「4Uweb/CMS」は、自治体が運営するウェブページを管理するシステムです。全国的な人気商品で、とりわけ首都圏ではトップクラスのシェアをもっています。
しかし、2011年の東日本大震災を機に、これまで主流だった「自庁型」から「データセンター活用型」へと大きく変化しました。「自庁型」とは自らの庁舎でサーバーを運営する、いわゆる客先設置(オンプレミス)型のことです。
先の震災では多くの庁舎が被災したり、停電でウェブを通じた情報発信に支障が生じましたが、何重にも防災対策を施しているデータセンターを活用したシステムへの被害はほとんどありませんでした。このことが自治体を「自庁型」から「データセンター活用型」へと走らせたのです。
自治体の公式ウェブは、住民への情報発信という重要な役割を果たしているにもかかわらず、住民基本台帳システムなど基幹系システムに比べて予算の割り当てが少ない傾向がみられるうえに、ウェブを運用する汎用的なデータセンターサービスは競争が激しく、「価格的にまったく折り合わない」(日立公共システムの橋本繁和・新事業開発本部統括部長)という状態に陥ってしまいました。
サーバーを客先に設置する従来型ならば、業者間による価格差はそれほど大きいものではありませんでしたが、データセンターサービスは規模のメリットによる低価格化が著しいことが背景にあります。
自治体は、基本的に要求仕様に合致するサービスのなかから最も安いものを選ぶ傾向にあるので、「4Uweb/CMS」そのものは自治体顧客から高く評価されても、データセンターサービスを含めたトータルの価格で競争力を高められずにいました。
「一時期は提案すらもままならなかった」(日立公共システムの坂野幸生・WebユニバーサルデザインS.G担当部長)。
そこで打って出たのが、顧客の要求仕様を満たしつつ、価格競争力を大幅に高められる外部のデータセンターサービスの活用でした。
つまり、「4Uweb/CMS」を販売するためのツールとして、客先設置型のサーバーではなくデータセンターを用いるという狙いで外部のデータセンターサービスを導入したのです。
外部データセンター活用で価格競争力を獲得
データセンターサービスを導入するにあたって、「まずはネット上でくまなくデータセンターサービスを探す」(日立公共システムの坂野担当部長)ところから始まりました。
「クラウド」「データセンター」などと検索をかけると、知名度の高い海外のクラウドサービスが目につきます。すぐれたサービスですが、使った分だけ代金を支払う従量課金制が基本なので、単年度予算方式の自治体ユーザーにとっては予算が読みにくく使いにくいという問題がありました。同様の理由で、従量課金型のパブリッククラウドサービスは少なくとも自治体向けの「4Uweb/CMS」を動かす基盤としては不向きでした。
紆余曲折の末に出会ったのが、物理サーバーとクラウドの使い勝手を兼ね備えた「さくらの専用サーバ」でした。オンライン申し込みから最速10分で物理サーバーを使えるだけでなく、必要に応じて無制限に台数を拡張でき、複数台による構成も可能という「限りなくクラウドの使い勝手に近い物理専用サーバー」だったのです。
価格競争力も十分にあり、物理サーバーを借りる仕組みなので、自治体の予算枠にも収まります。
ユーザーがデータセンター活用に移行しつつある最大の動機である災害対策では、北海道のデータセンターをメインとし、関西圏のデータセンターをサブとして使うことで災害時の同時被災の可能性はほぼゼロに近い構造を採用しています。
日立公共システム側もこの点を高く評価しており、「事業継続性と価格を両立させている」(日立公共システムの坂野担当部長)ことから「4Uweb/CMS」の基盤として採用することを2012年末までに決定。
価格競争力を得たことで、向こう1~2年をめどに自治体向け「4Uweb/CMS事業で10~20案件を獲得していきたい」としています。
今回の事例内容まとめ
導入企業
日立公共システムエンジニアリング株式会社
http://www.gp.hitachi.co.jp/
住所:東京都江東区東陽二丁目4番18号
資本金:3億円
主力商品の一つとして自治体向けコンテンツ管理システム(CMS)「4Uweb/CMS」を開発。首都圏の自治体向けCMS市場ではトップクラスのシェアを誇る。
課題
データセンターへの移行需要の高まりと、データセンターサービス料金の急速な低価格化に自社だけでは対応しきれない状況に陥った。
対策
さくらインターネットの「さくらの専用サーバ」を採用。
効果
「4Uweb/CMS」のデータセンター基盤に「さくらの専用サーバ」を採用したことで価格競争力が大幅に向上した。
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